「ダブルレトログラード」で表示された二つの時間
Brandear
人気ブランド「FRANCK MULLER(フランクミュラー)」の腕時計【ダブルレトログラードアワー】の人気の秘密や豆知識などブランディアならではの視点でご紹介させていただきます。
レトログラードという表現
時計の七大複雑機構の中の一つに「レトログラード機構」があります。レトログラード機構には、文字盤を見ると一目でそれと分かる特徴があります。普通のアナログ時計は時針と分針が絶えず一方向に円を描いて回り続けます。けれどもレトログラード機構が搭載された時計の針は扇形に動き、針が扇の端まで到達すると一瞬でジャンプして最初の位置に戻るのです。
レトログラード機構が用いられた時計のメーカーとして最も有名なブランドの一つはPIERRE KUNZ(ピエールクンツ)です。
そして、レトログラード機構の時計を得意とするピエールクンツの代表作は「パピヨン」です。文字盤の左側に時針を、右側に分針を配するという独特のデザインで、時針と分針が上から下へ下りてきて、各々が扇形の下端まで到達するごとにジャンプして上に戻るという、面白いデザインの時計です。(ちなみに『パピヨン』とはフランス語で『蝶々』という意味です。)
ピエール・クンツは、フランク・ミュラーに才能を見出され、FRANCK MULLER(フランクミュラー)の時計師として頭角を現し、2002年に独自のブランドを立ち上げるに至りました。
そんな彼は「レトログラードの魔術師」という異名を持っています。実際、ピエールクンツの腕時計にはレトログラード機構が自由自在に駆使されており、レトログラード針が楽しげに踊るモデルが多いようです。
たとえば「グランデイト・ダブルレトログラードセコンド」は一つの文字盤の中に、普通のアナログ時計の動きをする時針・分針とともに、曜日を表すレトログラードの扇形と秒を表すレトログラードの扇形が縦並びに配されています。とくに秒の表示は 0から30秒までと30秒から60秒までの二本の秒針で示されるもので、その動きはまるで秒針同士の追いかけっこのようです。
レトログラード時計の針の動きを見ると誰しも「時間は無限ではなく有限である」という事実に気付かされます。しかしクンツの手にかかると、そうした気付きもまた楽しいファンタジーに変わるかのようです。
FRANCK MULLER(フランクミュラー)の「ダブルレトログラードアワー」
FRANCK MULLER(フランクミュラー)は、PIERRE KUNZ(ピエールクンツ)とは少し違ったアプローチからレトログラード機構を活用しています。
フランク・ミュラーは、「ダブルレトログラードアワー」の文字盤の中に昼用と夜用、2つのレトログラード時計を配しました。こうすることで、フランクは昼と夜とでは、太陽の下で活動するオンタイムと月の光の下で活動するオフタイムというように、まったく違った時間が流れていることを視覚的に表現したのです。
ダブルレトログラードアワーには、ただでさえ複雑なレトログラード機構が2つまとめて1つの腕時計の中に収められているため、言うまでもなく一層複雑な時計になっています。けれども、そうした複雑機構をスマートに作り上げ、時間に関する哲学を雄弁に主張してしまうところは、フランクミュラーの時計の真骨頂と言って良いでしょう。
実のところ、レトログラード機構の原型はというと19世紀の懐中時計に採用されたものが存在していました。しかし、この表示方式を現代に復活させたのはフランク・ミュラーでした。1992年発表の超複雑時計「キャリバー92」において、彼はレトログラード方式で月表示をしています。このムーブメントには年々改良が加えられ、1998年にはパワーリザーブインジケーターが追加されました。
パワーリザーブインジケーターとは機械式時計のゼンマイの力の残量を示すもので、自動巻きと手巻き、いずれのムーブメントにも有意義な機能です。19世紀に作られたブレゲの時計にも搭載されていますが、複雑な装置であることに変わりはありません。なお、フランク・ミュラーが1998年のムーブメントに付け加えたパワーリザーブインジケーターは、レトログラード時計のように針が扇形に動くものです。
フランク・ミュラーは、ジュネーブ時計学校を卒業したとき博物館や時計コレクターから依頼されて希少な時計の修理に携わるところからキャリアを出発しました。様々な時計に触れることで、彼はおそらく最も若い頃から時計と時間の流れについて、いろいろ考えを巡らせていたに違いありません。